大判例

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大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)143号 判決

原告 北井鶴一

被告 吉田具司

一、主  文

被告は原告に対し金三万六千九百六円及之に対する昭和二十四年二月六日から支拂済に至る迄年六分の割合に依る金員を支拂え。

訴訟費用は被告の負担とする。

此の判決は原告が金一万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に無担保又は担保を條件とする仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として、「被告は昭和二十三年十二月二十三日金額金三万六千九百六円支拂期日昭和二十四年一月三十日支拂地大阪市、支拂場所日本電材大阪出張所、振出地徳島市とした約束手形一通を原告宛に振出し交付した。然るに被告は右支拂期日に右手形金の支拂を爲さなかつたから、原告は被告に対し右手形金三万六千九百六円及之に対する訴状送達の日の翌日である昭和二十四年二月六日から支拂済に至る迄年六分の割合に依る遅延損害金の支拂を求める爲本件請求に及んだ。」と陳述し、被告の抗弁に対し、「本件手形が原告から被告に対し昭和二十三年十月二十六日頃千二百回轉百ボルト七、五キロ直流発電機二台を代金十一万円で賣渡し、内一台を同年十一月十日頃内一台を同年十二月頃被告に引渡し、附属品の代金及右代金の一部支拂として振出されたこと、昭和二十四年一月二十六日附(二十五日附ではない)内容証明郵便で被告から原告に対し被告主張通りの相殺の意思表示があつたことは何れも之を認めるが、其の余の主張事実は之を否認する。右発電機は何れも芝浦製の中古品であり、原告は訴外昌電社から之を買受け、被告と賣買契約後内一台は契約後二週間位して、内一台は約一ケ月余の後夫々約二時間の試運轉の上引渡を受けて、直ちに被告に夫々発送し、前者は昭和二十三年十一月十日頃後者は同年十二月初旬被告に到着した筈である。從つて二台とも運送中に於ける格別の事故のない限り、被告に到着した際にも試運轉当時の状態そのまゝである筈であり、被告は少くとも着荷後遅滯なく之を檢査し試運轉によつて其の性能や故障の個所を発見した場合には遅滯なく賣主である原告に通知すべきであることは商法第五百二十六條の規定によつて明白である。然るに被告は現物受領後檢査義務を盡した旨の主張をしないばかりでなく、故障発見後遅滯なく賣主である原告に通知せず突然本件手形の支拂期日に到着した書面(乙第三号証を以て相殺の意思表示を爲したのみであるから、仮令機械に被告主張のような故障があり損害があつたとしても、商法第五百二十六條によつて原告に対し損害賠償を求める権利はない。」と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、「被告が原告主張の約束手形一通を振出し原告に交付したことは之を認める。然し被告は次の理由に因り右手形金の支拂義務がない。即ち被告は電機工業を営んで居り昭和二十三年十月二十六日原告から芝浦製だといつて千二百回轉百ボルト七、五キロ直流発電機二台を代金十一万円で買受け、代金を現金で支拂い、之を据附ける爲に要する附属品をも購入しその代金支拂の爲本件手形を振出し原告に交付した。而して被告は右の内一台を昭和二十三年十一月二十七日に、内一台を同年十二月になり受取つた。被告は右機械を徳島駅構内丸通運送店で受取り荷造りのまゝ丸通運送店に托して徳島縣海部郡鞆奥町に轉送し、直ちに訴外三浦信吉及山口隆堯各所有の船舶に取附け昭和二十五年一月三日に試運轉を行つたが、其の際右機械に隠れた瑕疵があり修繕せねば使用不能であることを知つた。更に調査したところ、本件発電機は契約の際は芝浦製であるとのことであつたが、眞実は芝浦製でなく、僞造の製作者のネーム板を添付してある僞物であることを発見するに至つたが、該ネーム板は極めて巧妙に出來ていた爲に右のような瑕疵の発見が遅れた。而して契約品に右のような瑕疵があつたので、昭和二十四年一月七日被告は普通郵便で其の旨原告に通知し、更に同月二十六日相殺の意思表示をした際も亦其の旨通知した。從つて被告は右の瑕疵に基く損害賠償を商法第五百二十六條に基き原告に請求し得るのであるが、該発電機はインチキ品であつた爲試運轉さえ出來なかつた爲に、船から取はずし貨物自動車に積み徳島市へ引取り、徳島電気工業所で修理するの已む爲きに至り、之が爲次の損害を被つた。(一)徳島電機工業所へ支拂つた工作代金二万七千百二十円、(二)海部郡鞆奥町から徳島市へ貨物自動車で発電機を運搬した往復賃金七千円、(三)其の際被告が鞆奥町へ出張して宿泊した宿泊料金八百五十五円、(四)其の後廻轉軸受部の悪いことが判明した爲に元木隆造商店で取替え、之に要した費用金二千円、以上合計金三万六千九百五十五円の損害を被つたので、被告は昭和二十四年一月二十五日(後に一月二十六日と訂正)附内容証明郵便で原告に対し、右損害金と本件手形金と対当額に於て相殺する旨の意思表示を爲したから、之に因り本件手形金債務は消滅したから原告の本件請求は失当である。」と陳述した。<立証省略>

三、理  由

被告が原告主張の日其の主張の通りの約束手形一通を振出し原告に交付したこと、被告が右手形の支拂期日に右約束手形金の支拂を爲さなかつたこと、昭和二十三年十月二十六日頃原告が被告に千二百回轉百ボルト七、五キロ発電機二台を代金十一万円で賣渡す旨約し、同年十一月中に内一台を同年十二月上旬頃迄に内一台を被告に送付して引渡したことは当事者間に爭がない。被告は右発電機は芝浦製の約束であつたのに僞造の製造者のネーム板を添附した僞物であると主張するが、右発電機が芝浦製でないのに芝浦製のように僞装したものであることを認めるに足る証拠はなく、却つて証人岩本啓之亮の証言に依り眞正に成立したものと認め得る甲第二号証、同証人の証言並に原告本人尋問の結果に依ると、右発電機は眞実芝浦製のものであることを認めることができるから、被告の右主張は採用出來ない。次に被告は右発電機には瑕疵があつて試運轉も不能であり、その修理を爲さざるを得ざるに至りその爲損害を被つたと主張するが、被告が商人であることはその主張に徴し明白であるから本件発電機の賣買は商行爲であることは勿論である。而して商人間の賣買に於ては、買主が其の目的物を受取つたときは遅滯なく之を檢査し、若し之に瑕疵があることを発見したときは直ちに賣主に其の通知を発しなければ其の瑕疵に因つて被つた損害賠償を請求し得ないことは、商法第五百二十六條に規定するところである。然るに被告は右発電機を受領後遅滯なく檢査を爲したことは主張しない。只右発電機を轉賣先である訴外三浦信吉及山口隆堯各所有の船舶に取附け、昭和二十四年一月三日試運轉をした際右発電機に瑕疵があることを発見し同月七日原告に其の旨通知したと主張し、証人三浦信吉、橋本豊水の各証言に依ると、昭和二十四年一月三日に右主張の如く試運轉をしたが、すぐに故障を起したので、被告は橋本豊水に修理を依頼して修理をした事実を認めることができる。然し同月七日に其の旨原告に通知したことを認めるに足る証拠はない。昭和二十四年一月二十六日附書面で被告主張のような相殺の意思表示を爲したことは当事者間に爭がない。右意思表示にはその前提としての本件発電機に瑕疵がある旨の通知をも含むものと解し得られる訳ではないが、被告が瑕疵を発見したのは、同月三日であるから、二十六日附の書面によつてその通知があつたものと解しても其の間二十余日を経過して居り、発電機受領後約二ケ月を経過しているから、商法第五百二十六條に所謂遅滯なく通知を爲したと謂うことは出來ない。被告は本件発電機にあつた瑕疵は隠れた瑕疵であると主張するが、前認定の通り昭和二十四年一月三日に爲した試運轉に依り直ちに発見することを得たのであるから、受領後試運轉さえすれば直ちに発見することを得たのである。從つて該瑕疵は隠れた瑕疵と謂うことはできない。商法第五百二十六條が買主に檢査及通知義務を負わしめたのは商行爲に於ては商品は轉々と轉賣されることは予想され、その間迅速と取引の安全を尊ぶ商取引に於て賣買の目的物に瑕疵や数量不足があつた場合遅滯なく賣主に通知を爲さなければ、賣主はその前者に対し代金の減額、契約の解除又は損害賠償等を爲すことは困難であると共に取引後日時に制限なく何時にてもかゝることを次々に許すとすれば、取引の安全を保つことが出來ない爲である。被告はこの義務に違反したのであるから、仮令その主張のような損害があつたとしても、原告に対しその賠償を請求することは出來ない。從つて被告の被つた損害の数額に付判断する迄もなく被告の抗弁は理由がないことは明かである。以上の理由に依り被告は原告に対し本件手形金三万六千九百六円及之に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明かである昭和二十四年二月六日から支拂済に至る迄年六分の割合に依る遅延損害金の支拂義務があることは明かである。その支拂を求める原告の請求を正当として認容し、民事訴訟法第八十九條第百九十六條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 岡野幸之助)

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